青森地方裁判所 昭和42年(行ク)2号 決定 1968年5月31日
申立人
菊地安生
右代理人
生井重男
被申立人
鰺ケ沢町長
中村清次郎
被申立人
鰺ケ沢町消防長事務取扱
中村清次郎
右両名代理人
小山内績
主文
一、被申立人らが申立人に対し昭和四二年六月一日付で申立人を鰺ケ沢町消防吏員に任命する、消防隊第二隊長を命じ、司令補に補する旨の処分、被申立人鰺ケ沢町消防長事務取扱中村清次郎が申立人に対し、同年七月一一日付をもつて懲戒処分として申立人を免職する旨の処分の効力は、当裁判所昭和四二年(行ウ)第七号任命処分等取消請求事件の判決確定に至るまで、これを停止する。
二、申立人のその余の申立を却下する。
三、申立費用は被申立人らの負担とする。
理由
一申立人代理人は、主文第一、三項同旨および「被申立人らが申立人に対し、昭和四二年六月五日から同年八月三日まで青森県消防学校へ入校を命ずる旨の処分は、青森地方裁判所昭和四二年(行ウ)第七号任命処分等取消請求事件の判決確定に至るまで、その効力を停止する。」との裁判を求めた。その理由の要旨は、次のとおりである。
(一) 申立人は、青森県西津軽郡鰺ケ沢町保険衛生課事務吏員の職にあつたところ、被申立人らは、昭和四二年六月一日付をもつて申立人に対し、鰺ケ沢町消防吏員に任命する、消防隊第二隊長を命じ、司令補に補する、同年六月五日から同年八月三日まで青森県消防学校へ入校を命ずる旨の処分(以下本件任命処分という。)をなし、申立人がこれを拒否したところ、被申立人鰺ケ沢町消防長事務取扱中村清次郎は、同年七月一一日付懲戒処分書をもつて地方公務員法第二九条第一項第二号および職員の分限に関する手続および効果に関する条例に基ずき、申立人に対し鰺ケ沢町消防吏員の職を免ずる旨の懲戒免職処分(以下本件免職処分という。)をなした。なお、被申立人鰺ケ沢町長は、同町消防長事務取扱を兼務するものである。
(二) しかしながら、本件任命処分および免職処分(以下両者を合わせて本件処分という。)は、申立人になんら右法令の規定に該当すべき事由がないにもかかわらずなされた違法な処分である。
1 申立人は、昭和三八年一一月二七日鰺ケ沢町職員労働組合(以下町職員労組という。)結成当初より現在に至るまでその執行委員長の職にあるほか、全日本自治体労働組合青森本部(以下全自労県本部という。)中央執行委員その他多くの組合関係の役員をつとめ、昭和四二年六月二七日以降は全自労県本部中央副執行委員長に選出され、町職員労組にとつて欠くべからざる存在であり、全自労県本部の中核的活動家としても高く評価され、県下の労働組合の活動上にも指導的役割を果してきたのである。
2 被申立人たる町長は、職員組合ないし職員の組合活動を嫌悪し、昭和三八年一一月以降同四〇年四月まで町職員労組の登録申請を拒否したり、あるいは同年七月施行の同組合役員選挙に当つても、同組合の御用組合化を狙い町側の組合役員候補者を擁立して不当な投票勧誘を行い、また組合活動家に対し不当な配置転換、不当な給与の格付を行う等町職員労組に対して不当労働行為に該当する所為に及んでいた。
3 本件任命処分も、消防職員は地方公務員法第五二条第五項により職員団体を結成する自由をも否定されているため、被申立人らにおいて申立人を町役場から消防隊に配置転換することにより、申立人を町役場から追放し、申立人の組合活動を完封すると共に、同組合の弱体化を意図してなされたものであるから、憲法第一四条、第一九条に違反して思想信条による不当な差別をするものであり、また職員団体のために正当な行為をしたことの故をもつてする不利益な取扱にほかならず、地方公務員法第一三条、第五六条に違反する違法のものであり、したがつて、本件任命処分を申立人が拒否したことは正当であつて、右拒否を理由とする本件免職処分もまた違法である。
4 申立人は、昭和三五年二月一六日鰺ケ沢町事務吏員として採用されて、戸籍住民登録係を命ぜられ、農政係長、税務課徴収係を経て、同四〇年五月一日以後保険衛生課事務吏員として勤務していたのであつて、一貫して事務職として勤務し、これにより明らかなように申立人は一般事務職として採用されたものであるからその職種の変更については本人たる申立人の同意ないし承諾を要すべく、まして消防吏員という従前の職務とは全く職務内容を異にする職種への任命処分は、申立人の同意のない以上右採用条件に反し許されず、この点においても本件任命処分は違法である。したがつて、これを拒否したことを理由とする本件免職処分も違法である。
(三) かようなわけで本件任命処分および免職処分はいずれも違法、かつ取消されるべきであるから、申立人は、被申立人らを被告として青森地方裁判所に対し本件処分の取消を求める訴を提起したが、申立人は前記のように町職員労組執行委員長、全自労県本部中央副執行委員長の職にあり、組合活動の中心的存在であるところ、本件処分により組合活動上重大な支障を来たし、日常の組合活動は不可能に近い状態となつているのみならず、申立人は給与のみによつて生計を立てている労働者であつて本件処分後は給与の支払を断たれたため日々の生活にも困窮し、本案の勝訴判決の確定を待つていては将来において償うことのできない損害を生ずる。かようなわけで、申立人には本件処分により被むる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるから本件各処分の効力の停止を求める。
(四) 申立人を原告、被申立人両名を被告とする本件各処分の取消の訴(青森地方裁判所昭和四二年行ウ第七号)は行政事件訴訟法第八条第二項により申立人のした鰺ケ沢町公平委員会に対する審査請求の裁決を経ずとも訴を提起しうる場合に該当するから適法な訴である。すなわち、
1 申立人は、本件任命処分並びに本件免職処分の双方について昭和四二年九月七日付で鰺ケ沢町公平委員会に対し審査請求をしており、仮に審査請求書の記載上任命処分に対する審査請求の趣旨が多少明確を欠くものがあるとしても、申立人において免職処分を重視したことの結果にほかならないのであつて、右両処分を審査請求の対象としたことには変りがない。しかして、本件任命処分は前記処分取消の事由として述べたところのように申立人から組合活動の自由を奪い、かつ採用条件に反して職種を異にする職務に配置転換せんとするものであつて、不利益処分に該当すべきものであるのに、被申立人らは「消防隊第二隊長となれば約五〇〇〇円昇給する。」。とくりかえし一貫して申立人に申し述べあたかも不利益処分でないかの如き錯覚を与え、これにより申立人も本件任命処分が不利益処分として公平委員会に対する審査請求の対象たりえないものと誤信していたところ、同年九月六日本件各処分に対する救済の申立方法につき申立人代理人から教示を受け漸く本件処分が不利益処分に該当することを知るに至つた。従つて、本件任命処分について地方公務員法第四九条の三所定の六〇日の不服申立期間は右不利益処分たることを知つた同年九月六日から起算されるべきである。更にまた、本件任命処分と免職処分は形式的には二個の異つた処分ではあつても、後者は前者を拒否したことに基ずいて行われたもので、両者はいずれも実質的には町職員労組の執行委員長たる申立人を同町消防隊第二隊長に配置転換することにより組合活動を封ぜんとする不当労働行為意思の発現であつて、両処分は不可分一体の関係にあり、本件任命処分の違法状態は本件免職処分のなされた同年七月一二日まで継続しているものと解すべく、不服申立期間の起算点について両処分を二分して別個にとらえるべきではなく後者の本件免職処分のあつたときを標準とすべきである。
2 申立人は、町職員労組の執行委員長、全自労県本部中央副執行委員長の職にあり、組合活動の中心的存在であるところ、本件処分後は自宅に待機して組合員等の連絡を受けるにとどまるほかなく組合活動上重大な支障を来たしており、本件任命処分によつても消防職員としての身分上申立人は組合活動を全く行うことができなくなるのであり、また申立人は給与のみにより生計を立てている労働者であるから、本件免職処分により生計の途を断たれ多大の借財を余儀なくされている。したがつて、申立人において本件処分により被むる著しい損害を避けるための緊急の必要性があり、行政事件訴訟法第八条二項第二号により、本件各処分についての審査請求に対する鰺ケ沢町公平委員会の裁決を経ることなく右処分の取消の訴を提起することができる。
3 申立人は、前記のとおり、本件処分につき昭和四二年九月七日鰺ケ沢町公平委員会に対し審査請求をなしたのであるが、同委員会は、その後三カ月を経過した現在に至るもいまだ第一回審査期日の指定さえ行つていない状況である。
二被申立代理人は、「本件申立を却下する。申立費用は申立人の負担とする。」との裁判を求め、その理由は次のとおりである。
(一) 本件申立については、申立人から被申立人両名を被告として青森地方裁判所昭和四二年(行ウ)第七号任命処分等取消請求事件が同年九月二九日提起されているが、右本案訴訟は訴訟要件を欠く不適法な訴であるから、本件申立もまた不適法であつて却下を免れない。すなわち、
1 地方公務員が行政処分を不服としてその取消の訴を提起する場合には、行政事件訴訟法第八条第一項ただし書、地方公務員法第四九条の二、第五一条の二に従い人事委員会または公平委員会の裁決または決定を経た後でなければこれを提起しえないものであるところ、申立人は、昭和四二年九月八日本件免職処分について公平委員会に不服申立をなしたけれども、本件任命処分については不服の申立をしたことがない。
2 本件免職処分について昭和四二年九月八日申立人が鰺ケ沢町公平委員会に対してした審査請求について同委員会において審理中であるにもかかわらず申立人は審査の請求後三カ月を経過していないのに本件免職処分の取消の訴を提起したのであるから、右訴は行政事件訴訟法第八条第二項第一号の要件を充足せず不適法である。
(二) 本件任命処分について。
申立人を鰺ケ沢町消防吏員に任命し、消防隊第二隊長を命じたのは、次のような事情による。
鰺ケ沢町は、「消防本部および消防署を置かなければならない市町村を定める等の政令」の一部改正により、昭和四二年四月一日以後消防署を設置しなければならなくなつたが、従来財政再建法の適用を受けていた同町としては、健全財政維持のため右新設消防署の吏員を町長部局から充用することを計画し、昭和四二年三月の町議会において町長部局の職員定数一〇九名を一六名減じ、消防機関の職員定数二名を一六名増員して一八名とする旨職員定数条例を改正したうえ、町長部局の定数減一六名中一〇名を消防吏員として充用することとし、消防吏員のうち消防隊長は、消防吏員を指揮監督する職責を有する関係上それにふさわしい適格者を就任せしめうる必要があるところ、申立人は軍隊経験があるうえ指導力もあり、住居も消防署より遠くないこと、消防隊第一隊長との年令も近いこと等諸般の事情を考慮して申立人を適格者と認定した。しかして、同年五月二三日から同月三一日まで町理事者と申立人を含む組合執行委員との間で前後四回にわたり協議を重ね、結局申立人の承諾の下に本件任命処分をなしたものであつて、組合に対する干渉などということは全く考慮の外にあつた。そもそも町長は地方公務員法第一七条第一項により職員の職に欠員が生じた場合には採用、昇任、降任または転任等の方法により職員を任命することができるのであつて、申立人に対する本件任命処分はこれにもとずく転任の方法によつたものであるところ、同一地方公共団体内の機関相互の職員の異動は任命権者の自由裁量によりなしうるものであつて、申立人の同意を必要とするものでない。申立人はその採用に際し一般事務職として採用されることが条件となつていたと主張するけれども、かような条件が附されるわけがなく、仮に右採用条件なるものがあつたとしても既に申立人が本件配置転換を承諾した以上採用条件の存在を主張し得べくもない。
(三) 本件免職処分について。
地方公務員は、全体の奉仕者として公共の利益のため忠実にその職務を果し、かつ職務に専念すべきものであるから、仮に申立人が本件任命処分に不服であつても、任命権者の発令があつた以上忠実にこれに従い、新しい職務に専念すべきであり、一応新しい職務に従つた上で任命処分の取消を求めることも可能であつた。しかるに、申立人は再三にわたる上司の注意、説得にもかかわらず、職務命令に従わなかつたものであつて、その義務違反は重大である。
(四) 申立人が本件処分により借財に頼つて生活しなければならなくなつたのは、申立人自らの招いた責任であり、また申立人は組合およびその上部団体から給与相当額の援助を受けているから回復困難な損害はなく、またこれを避けるための緊急の必要性も存しない。
三<疎明資料関係―省略>
四当裁判所の判断
(一) <疎明資料>によれば、被申立人らが申立人に対し、昭和四二年六月一日付をもつて鰺ケ沢町消防吏員に任命する、消防隊第二隊長を命じ、司令補に補する、昭和四二年六月五日から同年八月三日まで青森県消防学校へ入校を命ずる旨の任命処分をしたこと、および被申立人鰺ケ沢町消防長事務取扱中村清次郎は、昭和四二年七月一一日付をもつて、地方公務員法第二九条第一項第二号および職員の分限に関する手続および効果に関する条例に基ずき、申立人に対し懲戒免職処分をしたことが疎明される。
(二) 行政処分の効力停止は、本案訴訟における原告の権利保全のために認められる制度であるから、本案の訴が適法に係属していることを要し、訴訟要件を具備せず、訴却下を免れないときは行政事件訴訟法第二五条第二項にもとずく行政処分の効力その他執行の停止もまた許されないことが明らかである。
1 申立人が被申立人らを被告として昭和四二年九月二九日本件任命処分および免職処分の取消の訴を青森地方裁判所に提起したことは当裁判所に顕著であるところ、<疎明資料>によれば、申立人が同月七日付不利益処分審査請求書をもつて鰺ケ沢町公平委員会に対し審査請求の申立をしたことが疎明される。
右審査請求が申立人主張のように本件免職処分と本件任命処分の双方について審査請求をしたものか、換言すれば右審査請求書の表現上本件免職処分に対して審査請求する旨の記載があるとしても実質的に本件任命処分に対する審査請求をする旨が包含されていると認められるか否かにつき考えるに、右審査請求書(疎乙第七号証)には、本件任命処分および本件免職処分がなされるに至つた経過と本件任命処分の不当なるゆえんがかかる記載されており、これによれば申立人は公平委員会において本件任命処分の違法の有無を審理の対象とすべき旨を読み取ることができるが、右審査請求書には不利益処分の内容として本件免職処分を、処分があつたことを知つた日として本件免職処分の日附を、審査請求により回復されるべき措置として免職の取消(不服事由の末尾に記載)を申立人の所属部局として本件任命処分により発令された消防隊第二隊長と明記され、前後を一貫すれば公平委員会に対して取消を求める処分は本件免職処分であるとしていることが明らかであるところ、本件免職処分の違法は本件任命処分の違法に主として起因するものであることによれば、本件免職処分の当否を判定するには前提として当然に本件任命処分の違法の有無を判定しなければならない筋あいであり、申立人もこれを認識して処分に対する不服の事由として審査請求書に本件任命処分を受けるに至つた経過並びにその違法なるゆえんを記載したものと推測されるのであつて、申立人の審尋の結果に見られるように申立人は当初本件任命処分を不利益処分と思料しなかつたということは右の諸点を裏付けるに足りる(本件任命処分が不利益処分に該当することは後述する。)。しかりとすれば、申立人は公平委員会に対して右審査請求書により審査請求の対象とし取消を求めたのは本件免職処分だけであつて、本件任命処分をこれに含ませる意思表示をしたものでないと一応認めるべきであり、この点に関する申立人の主張は採用するに値しない。その他に本件任命処分につき審査請求をしたことの疎明はない。
申立人は、本件任命処分についても審査請求があつたことの理由のひとつとして本件任命処分と本件免職処分とは不可分一体であるというのであるが、一は地方公務員法第一七条にもとずき配置転換を内包する処分であり、他は同法第二九条にもとずく地方公務員の懲戒処分であつて、行政処分としての性質、目的、効果が異なるから両者が被処分者に対する不利益な処分たる点では共通であり、かつたとえ被申立人らのいわば不当労働行為の意思の発現としてなされたものであつたとしても右両処分が不可分一体ないし包括的な一個の行政処分として評価し得ないのである。従つて、右両処分は別個の行政処分としてそれぞれ別個に地方公務員法第四九条以下の審査請求の対象となし得、またこれをしなければならず、同法第四九条の三による不服申立の期間も別個に進行するといわなければならない。
本件任命処分の違法状態が継続するから不服申立の期間は最終処分たるべき本件免職処分の日から起算されるべしとの申立人の主張も、本件任命処分についてはこれが不利益な処分に該当することを現実に了知した日から起算されるべしとの主張も、いずれも採用に値しない。
2 かうなわけで、本件任命処分については地方公務員法第四九条の二による不服申立を欠くのであるが、本件免職処分については前記のように公平委員会に対する不利益処分の審査請求があり、これに対する裁決が未だなされていない。もつとも、申立人、被申立人らの間の前記取消訴訟は行政事件訴訟法第八条第二項所定の審査請求後三カ月の期間経過前に訴提起がなされたのであるが、右訴訟の係属中にその期間も経過したことが明らかであるから右の点の違法は訴の適否を左右しないとしなければならない。そこで、地方公務員法第四九条の二の不服申立をすることなく提起された本件任命処分の取消の訴が行政事件訴訟法第八条第二項所定の除外事由に該当するか否かを判断するに、申立人が本件任命処分を受け、本件免職処分がなされた後、前記審査請求が申立てられるに至るまでの経過として、<疎明資料>をあわせれば、次の事実が疎明される。すなわち、鰺ケ沢町議会において昭和四二年三月二五日同町消防本部および消防署が設置されるに伴い消防職員定数条例を改正して吏員二名を吏員一八名に増員し、その増加による人員にあてるため町職員定数条例を改正して職員一〇九名を九三名に減少する旨の各改正条例を議決したところ、これにより町職員中解職される者、町職員から消防職員に配置転換される者の生ずるおそれがあつたため町職員組合執行委員長たる申立人、同副執行委員長一戸文男らが町当局者らと交渉協議の結果同年三月二七日町職員の解職は原則として行わない、組合役員が消防署に転出する場合は事前協議するとの確約を得ていたこと、しかるに同月二三日に至り町助役、庶務課長らは右組合役員たる申立人に対し突然消防隊第二隊長に転出すべきことの承諾を求めたので、申立人は町側の右約束を楯にこれを拒絶したところ、町側は右転出を承諾すれば昇格して俸給も約五〇〇〇円昇給する旨を申し述べて承諾を迫つたが、依然として申立人および職員組合の承諾が得られず、遂に町側は同年六月一日付辞令をもつて本件任命を発令したこと、申立人は右任命処分は前記町側の確約に反し、かつ組合の弱体化をはかるものであるとしてこれに服さず辞令を返上し、町側と申立人との間でこれを繰り返し、職員組合は申立人を支持する態度を表明して来たところ、町側は同年七月一一日付で申立人について本件懲戒免職処分に附したこと、しかして申立人は本件任命処分に従えばいわゆる組合活動が不能に陥ることを認識しながらも給与上の待遇面ではかえつて申立人に利益をもたらすものであるため、深く思慮をめぐらすことなく町側との団体交渉により右処分の撤回が得られるものと思料して組合内部での討議に専念し、本件懲戒免職処分後はこれに重点を置きかえこれが撤回ないし取消されれば本件任命処分もおのずから解消するとし、町側および公平委員会に対して懲戒免職処分を中心として処分の取消を求めて来たこと、以上の事実を一応認めるに足りる。
地方公務員法第五二条第五項によれば、消防職員は職員の勤務条件の維持改善を図ることを目的とし、かつ地方公共団体の当局と交渉する団体を結成し、またこれに加入することは許されないから、本件任命処分の結果申立人は鰺ケ沢町職員組合の委員長たる地位はもちろん組合員たる地位も失わざるをえないのであり、このことは、たとえ本件任命処分が申立人に昇格、昇給をもたらすものであるとしても申立人にとり地方公務員法第四九条にいわゆる不利益処分に該当する。しかして、前記認定の事情によれば、申立人は右掲記の点の事実認識ないし法解釈の理解の不十分の結果本件任命処分をいわゆる不利益処分にあたるものと解することなく、しかも本件懲戒処分の発令後はこれに目を奪われ、またはこれと本件任命処分とが一体なるものと思料して免職処分を重視してその取消を求め、本件任命処分については公平委員会に対する審査請求その他の不服申立の措置を採るのを怠つたとみることができ、これにつき申立人としては無理からぬ事情にあつたというべきである。従つて、本件任命処分につき審査請求を経なかつたことについては申立人に正当な理由があると解すべきであるから、公平委員会に対し適法の期間内に審査請求することなく提起された本件任命処分の取消訴訟は行政事件法第八第第二項第三号により適法に係属しているといわなければならない。
以上のように本件任命処分、懲戒免職処分の取消の訴はいずれも適法であり、この点の被申立人らの主張はすべて理由がない。
(三) よつて、本件任命処分および本件免職処分の適否につき考えるに、任命処分は前記のように鰺ケ沢町における消防本部および消防署の設置に伴う職員定数の改正による措置であるが、<疎明資料>によれば、被申立人たる鰺ケ沢町長は同職員団体の登録申請を組合役員選挙以後構成員が倍加したということだけで不適格であるとし、昭和四〇年度における職員組合の役員選挙に際して町側の対立候補を立て職員の各個に働きかけて職員の自由な選出に干渉しようとし、その後開催された町議会においてこれを追及され陳謝の意を表明したことがあつたことが疎明され、これに<疎明資料>により認められる申立人主張のとおり職歴、組合経歴をあわせ考えれば、本件任命処分は主として申立人を職員組合から排除し、その組合活動を封ぜんとすることを目的としてなされたものと一応認められる。
被申立人らは本件任命処分につき申立人が同意ないし承諾していたと主張するが、かかる事実の認めえないことは前記のとおりである。
しからば、本件任命処分は地方公務員法第五六条に反し、違法のものというべきであり、本件任命処分に不服従であつたことを理由としてなされた本件懲戒免職処分も違法であるといわなければならない。
(四) そこで、申立人につき生ずる回復困難な損害を避けるための緊急の必要性の有無について考える。
1 申立人は、本件各処分により申立人が執行委員長の地位にある町職員労組の活動が不可能になり、また全自労県本部中央副執行委員長の職責を果す上にも重大なる支障を来たしていることは上来説示により明らかである。
2 次に<疎明資料>を総合すれば、申立人かたは妻および二男の三名の家族から成り、申立人のほか収入を得ている者はなく、本件免職処分当時申立人は、月額四万二、五〇〇円の給与を受けこれのみによつて生計を立てていたこと、本件免職処分後は他に収入を得る途がないため、全自労県本部書記長より個人的に借財をして現在まで生計を維持してきた状態にあり、その借財も現在二〇万円余にのぼつていること、又申立人およびその家族らに特段の資産もないことがうかがわれる。
以上1・2・の事実によれば、本件任命および免職処分により申立入につき回復の困難な損害を避けるため緊急の必要がある場合に該当するものと一応認められる。なお、申立人に対し全自労より救援資金を給せられうることが認められるが、この点は右判定を左右するものとするには足りない。
(五) 本件任命処分のうち昭和四二年六月五日から同年八月三日まで青森県消防学校へ入校を命ずる旨の処分は既にその期間が経過していることが明らかであるからその効力の停止を求める利益がない。
よつて、申立人の本件申立のうち、右入校を命ずる処分の効力の停止を求める部分を却下し、その余の申立はすべてこれを認容することとして、申立費用につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(間中彦次 辻忠雄 宮沢建治)